この記事では、バフェット流バリュー投資における「企業の評価基準」について紹介しています。一度理解してしまえば、約5分で企業の評価が可能です。
2014年、バークシャー・ハサウェイ(ウォーレン・バフェットの投資会社)の株主への手紙で、バフェットは投資する際の6つの評価基準を説明してくれています。
(1) Large purchases (at least $75 million of pre-tax earnings unless the business will fit into one of our existing units),
税引き前の利益が75百万ドル以上の企業
(2) Demonstrated consistent earning power (future projections are of no interest to us, nor are “turnaround” situations),
継続的に利益を生んでいる企業
(3) Businesses earning good returns on equity while employing little or no debt,
従業員数が少ないか、あるいは借金が少なくROEが高い企業
(4) Management in place (we can’t supply it),
有能な経営者がいること
(5) Simple businesses (if there’s lots of technology, we won’t understand it),
シンプルな事業
(6) An offering price (we don’t want to waste our time or that of the seller by talking, even preliminarily, about a transaction when price is unknown).
適切な価格
企業を評価する
前述のとおり、バフェットの評価基準は非常に単純かつ明快です。しかし、これだけではちょっと抽象的ですよね?
バフェットオンラインスクール(BOS)は、これらの評価基準に則り、具体的な10の項目によってシステマチックに企業の評価をしていきます。
BOSでは評価項目の合計点が7以上であれば、投資して良い会社の条件に当てはまります。
(※株の適正価格については別途説明します)
また、評価は金融情報を見て加点する項目とリスクに応じて減点する項目があります。今回はApple.Incを例に説明していきます。
金融情報を見て加点する項目は、Morning Star(https://www.morningstar.com/)の財政情報で確認できます(特に計算する必要はありません)。
下記ページの[Key Ration] → [Full Key Ratios Data]で確認します
https://www.morningstar.com/stocks/ xnas/aapl/quote
リスクに応じて減点する項目は、アニュアルレポートや企業情報の確認が必要になる場合があります。
Morning Starの財政情報から加点していく
各項目を足していき、10点満点中7点以上であれば、最初の関門は突破です。
※ここでの合計点から、後ほどリスクの数だけ減点していきます。
それでは、さっそく先ほどのMorning StarでAppleの企業情報にアクセスしてください。
1. EPS(1株当たりの利益)が10年間安定していること
EPSは、”Earnings Per Share”の略で、日本語では「一株当たり利益」と呼ばれています。当期純利益を発行済株式数で割ったものをいいます。これは、企業の一株当たりの利益額で収益性を見る指標で、一般的に企業の収益力を見る際に活用されます。この値が高いほどその企業の収益力が高いことを意味します。
参考:EPS = Net Income/ No of Shares = 当期純利益÷発行済株式数
AppleはEPSが安定していると言えるので、この評価項目は1点です。
ちなみになぜEPSを見る必要があるのかというと、EPSと株価には一定の相関があり同じような動きをするからです。
したがって、10年間安定している(上昇している)企業は、株価も安定している(上昇する)傾向にあるのです。
2. フリーキャッシュフローが10年間プラスであること
フリーキャッシュフロー(FCF)は、「純現金収支」とも呼ばれ、営業活動による現金収支と投資活動による現金収支を足したものです。
企業が自由に使える現金をどれだけ生み出したかを示す指標となっています。
一般的にFCFは、黒字が大きいほど、企業の経営状態が良好と言えるのに対して、赤字の場合は、理由の見極めが必要となります。
Appleは10年間フリーキャッシュフローがプラスになっていますね。ということはこちらも評価点は1です。
3. 自己資本利益率が10年間続けて15%以上であること
自己資本利益率は、「ROE」や「株主資本利益率」とも呼ばれ、企業の純資産(自己資本)に対する当期純利益(税引後利益)の割合のことをいいます。
自己資本利益率が高い会社は「投資したお金を使って効率よく稼いでいる会社」である言えます。
Appleは自己資本率が毎年30%以上あるため良い会社であると言えます。したがってこの評価点は1です。
4. インタレスト・カバレッジ・レシオが4倍よりも大きいこと
インタレスト・カバレッジ・レシオ(Interest Coverage Ratio)は、会社の借入金等の利息の支払能力を測るための財務指標で、金融費用(支払利息・割引料)に対する事業利益(営業利益と受取利息・受取配当金の合計)の比率(倍率)をいいます。
一般的に、その倍率が高いほど負債の返済の安全度が高く、財務的に余裕があることを示しています。
Appleの場合、2018年の9月の段階では23.50倍になっています(「-」となっている箇所は負債が0ということ)。
この評価項目では、インタレスト・カバレッジ・レシオが4倍以上であれば0.5点、10倍以上であれば1点となります。
したがって、Appleの評価は1点となります
5. 競争優位性がいくつあるか
バフェット流投資においては、4つのカテゴリに分けて競争優位性を評価します。この競争優位性がいくつあるかによって、この評価の点数が変わります。
競争優位性が0個なら0点
競争優位性が1個なら2点
競争優位性が2個なら3点
競争優位性が3個以上なら4点です
なお、この競争優位性については、Morning Starの金融情報を見ても書いていませんので、必要に応じてアニュアルレポート、企業ホームページなども参照してください。
無形資産
特許やブランドのことで、その企業が技術的な特許や「その会社の製品ならうれしい!」と言ったような無形資産があるかどうかを評価します。
iPhoneやMacBookが高くなってもApple製品を購入する人は多いと思います。
それは、もちろんApple製品がデザイン性に優れているということもあると思いますが、Apple製品であれば大丈夫!といった期待感や信頼性などそれそのものがブランド力になります。また、Appleは特許もたくさん持っています。
したがって、無形資産は強みです。
コスト優位性
競合他社よりも構造的にコスト面で優位に立つてる企業かどうかを評価します。
他社よりも商品の値段を安く設定でき、競争に勝つことが可能です。コスト優位性が生じる要因は主に「規模」「革新的な経営手法」「ネット(vs実店舗)」です。
一般的にAppleはコストリーダーシップ戦略を取っていないとされていますが、Appleのような大きな企業は「競合他社」に比べてコスト優位性はあります。
したがって、コスト優位性は強みです。
ただし、この競争優位性の各項目については、議論の余地がいろいろあります。したがって、「自分が理解できない会社の株は買わない」というバフェットの戦略も重要です。
ネットワーク効果
ネットワーク効果は、たくさんの人がネットワークを使用することによって、サービスの価値が高まるかどうかを評価します。
例えば私たちは、
友人とつながりたい時にはFacebookを使い
調べものをしたい時にはGoogleを使い
何か買いたい時にはAmazon使います
これらのサービスは、私たちが使えば使うほど、利便性や有用性(といった価値)が高まります。
Appleにネットワーク効果があるかといえば・・・現状はそんなに強くないでしょう。したがってネットワーク効果は強みではありません。
切り替えコスト
切り替えコスト(スイッチング・コスト)とは、顧客が現在利用している製品・サービスから別会社の製品・サービスに乗り換える際に負担しなければならないコストのことです。
このコストには大きくは3つあります。
・金銭的コスト=買い替えの費用
・手間コスト=操作の違いに慣れるために費やさなければならない時間と労力
・心理的コスト=新しいソフトの使い方を1から学び直さないといけないというプレッシャー
(グロービスより)
例えば、スーパーで〇ッコーマンの醤油が欲しいとします。でもその醤油が売り切れの場合どうしますか?
他のメーカーの醤油を買いますよね(よほどこだわりがある方は違うかもしれませんが・・・)
つまり、簡単に代替ができますよね?このようなものは切り替えコストは低いです。
一方、あなたがシステム会社の営業だとして、サーバーの営業をしていたとします。しかし、サーバーというのは、その会社のすべてのシステムが繋がっていたり、仕様に合わなかったりと簡単に変更できるものではありません。
また、新たなサーバーを導入するとなると学習コストもかかったりします。このような場合は切り替えコストが高い(=つまりこのような製品を作っている会社は強い)です。
Apple製品はどうでしょうか?例えばMacのPCやiphoneを使ったからと言って、他のメーカーのPCやスマホが使えないということはあまり無いと思います。
したがって、切り替えコストは強みではありません。
これらを踏まえると、Appleの強みは2つですので、評価は3点です。
6.当期純利益率が10年間10%以上を維持していること
当期純利益率とは、会社のすべての活動の結果として得られる当期純利益を売上高で割った値です。つまりは、会社全体の収益力を示します。
当期純利益率が10%未満なら0点
当期純利益率が10%以上なら0.5点
当期純利益率が20%以上なら1点です
参考:当期純利益率 (Net Profit Margin) % = 当期純利益(Net Income) / 売上高 (Revenue) × 100
Appleは10年間20%以上の当期純利益率があるので評価は1点です。
7.配当を出していること
読んで字のごとく、配当を出しているか(会社が得た利益の一部を株主に還元しているか)どうかを確認します。私たちが株を購入する理由の1つは、「配当をもらえるから」ですよね?だから配当を出してくれる企業は、私たちにとって良い企業なのです!!
Appleは当初、配当を出していませんでしたが、2012年からは配当を出してくれています。したがって、評価点は1です。
リスクに応じて減点していく
前述までの評価項目において、例え7点以上取っていたとしても、リスクを織り込んでいなければ結果的に思わぬ低い株価になってしまい、最悪倒産になりかねません。
そこで、私たちが株式投資する際には、企業が抱えているリスクもしっかりと考えておかなくてはなりません。
8.国や政府からの規制リスク
法律や条例などが変わることによって、その企業のビジネスに影響があるかどうかを考えます。
例えば、たばこやお酒などは税金が上がれば利益が下がる可能性もあります。このような場合は規制リスクありと判断し-1点となります。
ではAppleはどうでしょうか?おそらく国からの規制も無く、法律によって製品の売り上げに影響が出るということはほぼ皆無として判断して良いのではないでしょうか?よって、規制リスクはなし(減点なし)です。
9.技術リスク
技術が進化すると企業に影響を与えるかどうかを考えます。Appleは毎年新しいMacOSやMac Bookを出しています。これは言わずもがな、ハード面においてもソフト面においても他の技術(半導体技術やネットワーク技術などあらゆる技術的な)リスク(不確実要素)があります。
したがって、技術リスクは有りなので-1点です。
10.主要人物のリスク
その企業の業績が特定の個人に依存しているかどうかを考えます。会社が社長(あるいは特定の業務を行っている人材)を置き換えても、会社の業績に影響がない場合はリスクは無しとなります。
Appleは当時スティーブ・ジョブズという絶対的なカリスマが居ました。これは、特定の個人に依存しているといえるでしょうか?
ジョブズが亡くなった当時、Appleの株価は一時的に下がりました。しかし、現在の株価を見てみると、当時よりも高くなっています。
つまり、Appleは個人の力に依存していたわけではないため、主要人物のリスクは無し(減点なし)と考えることができます。
まとめ
いかがでしたか?
以上を踏まえると、Appleの評価点は8点になり、投資するに値する企業と判断することができます。
Morning Starの情報も、最初は数字や英語ばかりで慣れるまでは大変かもしれませんが、いったん慣れてしまえば約5分で企業の評価ができます。
どのような企業に投資すべきか迷っている方や、これから自分が投資している会社が投資するに値するかどうか知りたい方は、ぜひこの評価項目を活用して検討してみてください。
参考図書
メアリー・バフェットは、ウォーレン・バフェットの息子ピーターの元夫人でウォーレン・バフェットから約12年間、投資の手法を学んでいます。そして、そこで学んだ投資法を執筆していることでも有名です。
今回BOS参加後のブートキャンプにて、人数限定でいくつか書籍もプレゼントされていたので、紹介します。
1.史上最強の投資家バフェットの教訓
本来、投資とはどうあるべきか・・・という事を考えさせられます。世界で最も有名な投資家の一人だけあって、納得する内容ばかりです。初心者だけでなく、中上級者にとっても、初心に立ち返るために一読の価値はあります。
また、銘柄選択術では、将来利益の詳細な計算方法なども記載されており、ウォーレンバフェットの考え方が手に取るようにわかります。
本書を読んだあとに、ぜひ次の「億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術」を読んでいただきたいです。
2. 億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術
本書は、ウォーレンバフェットが具体的にどのような計算で投資の価値計算をしているかが記述されています。
また、投資の基本が書かれいるため、投資を始める人はまずはこの読んでおいて間違いないと思います。
バフェットの考え方を知れるだけでも非常に価値があるのではないでしょうか。
3. 麗しのバフェット銘柄
バフェットの選別的な逆張り投資手法とは、下降相場を徹底的に利用したバリュー投資であり、本書ではそれを具体的に解説しています。
また、実際のバフェットの保有銘柄と、保有をした背景も説明されており、投資の姿勢や哲学についても学ぶことができます。
長期投資の視点を教えてくれるという点で、一読の価値があります。
Roots Lab.では定期的にイベントを開催しています。興味のあるテーマがあればぜひご参加ください!